花のうた

日記

ふわふわたち

2023.8.29

 

予防線をはってる。怖くて。シルバニアも、ぬいぐるみも、ふたつずつ。いぬの話。

 

小学六年生の、夏の頃だった気がする。姉のために、いっぴきのいぬが我が家にやってきた。トイプードルの女の子。元気ないぬだった。チャッピーと名付けられて、以来十余年、我が家に君臨している。そのチャッピーが産んだ子犬が嵐。本当はARASHIというらしい。命名したのは母。もういっぴき、チャッピーは産んだのだけれど、その子は呼吸もできていなかったらしい。家の庭で、眠ってる。アイスと名付けられた女の子の子犬だった。中学生になったわたしの、誕生日の事だった。

 

チャッピーはとびきりにうつくしいいぬで、多分骨が綺麗なんだと思う。しっかりとした体で、元気いっぱいに駆けまわるけど、ボールは絶対に持ってこない。そういういぬだ。対して嵐はぬいぐるみ感の強いぽってりしたいぬで、太ってるよと獣医さんに言われるほどの食いしん坊。だけど、ボールは必ず持ってくる。そういういぬ。

 

にひきとも、ふわふわしている。わたしはごはんの係を外れてしまったので(純粋に働いててごはんの時間に家にいなかったからで、最近は戸惑いながらも手伝ってる)、とくべつにしっぽを振ってくれるとかはなくなったけれど、遊びに来てくれたりはするし、撫でる手を払われる事も無い。チャッピーも嵐も、どちらかを撫でていると、どちらかが寄って来て撫でてと頭を出してくる。チャッピーは、ごしごしするみたいにめちゃくちゃに撫でられるのが好き。満足すると絶対にくしゃみをする。嵐は、抱っこされるのがとにかく好き。抱いてたのをおろすと吠えたりする事もある。どっちも、いちばんごはんをくれて、いちばん散歩に連れて行ってくれる、母が好き。

 

母といるチャッピーは、とくに変わらず、というかチャッピーはヒエラルキーのてっぺんに自分を置いているから、あんまり変える必要がない。でも嵐は、母といると、気が大きくなる。大きないぬに吠えて母の影に隠れたりする。小心者のくせに。ボールが大好きで、すぐに道端の草を食べる。にひきでいないと不安そうに家を振り返りながらお散歩に行く。

 

もう、十余年、家にいる。

 

ずっと、薬を飲んでる事も、痩せてきた事も、ずっと眠ってる事も、知ってた。でも家にいるようになって、ああ本当に歳を取ったんだなあ、と思って。さっき撫でていて、舐めてくれなくて、ずっと不安に思ってる事が出て来てしまった。いぬは、もちろん、人の寿命よりずっとそれが短くて。それがずっと怖くて。これまでにも入院したりとか、色々あったけど、でも、それでも家にはいぬが二匹いて。ずっとずっといてほしいのに、二匹はおばあちゃんとおじいちゃんになってしまった。

 

まだ元気だし、ごはんもおやつも食べるし、お散歩にも、元気な時は行ってる。だけどあんなに痩せて、たくさん薬を飲んで、寝る時間がどんどん増えて、そういう姿を見てるととても怖くて仕方がない。わたしはきっと耐えられないと思う。でも普通に生きていくんだと思う。いつか思い出にするんだと思う。そういう、全部、シミュレーションして。怖がってる。

 

誕生日が同じだから毎年抱っこして写真を撮って、すぐ抱っこを強請る、わたしの足元で眠る嵐。クッションの真ん中に陣取って、帰宅するたびに百年ぶりに会ったの?っていうくらいの勢いで迎えてくれて、撫でまわすまで満足しないチャッピー。いつまでも、は、ない。それは別に明日じゃないし、明後日でも、一か月後でもないと思う。もうずっと怖い。

 

祖母との最期の事が忘れられない。倒れて、と聞いて、新幹線に乗った。多分、わたしのために、命の時間をお医者様たちが延ばしてくれていた。亡くなってから、あれが好きだったよね、とか、そういう話に置いてけぼりにされた。最後のメールを、返信、できていなかった。

 

耐えられない。絶対に。もう嫌。最後に手を握って、名前を呼ぶ、あの瞬間がすごく怖い。シルバニアを買って、ぬいぐるみを買って、備えている自分が嫌になる。でも、もっとチャッピーと嵐と一緒にいたい、そう思う事も、怖い。

 

どうしたらいいのかわからない。ずっと一緒に、側にいてほしい。撫でていて、そんな事を考えて、部屋に戻ってずっと泣きながら日記を書いてる。今日すごく長い。

 

まだまだ一緒にいようね~って撫でて来たい。もうちょっと泣き止んだら、ふわふわちゃんたちを撫でまわしに行こうかな、でも寝てるから明日おはようを言いに行こうかな。どっちでもいいけど、おやすみもおはようも、ちゃんとしたい。えーんずっと一生一緒にいて。